この記事ではバリスタとして5年以上働く筆者がこれからバリスタを目指したい人に向けて業務用エスプレッソグラインダーの基本的知識や使用方法について分かり易く解説しています。
本記事では主に電気式の業務用エスプレッソグラインダーについて解説しています。

下記目次よりクリックすると記事の読みたい箇所から読む事ができます。
エスプレッソグラインダーの基本知識
グラインダー(ミル)とは?
挽く前のコーヒー豆(ホールビーンズ)を細かく粉砕する機械のことを指します。
主に電気式とハンドルを回して挽く手動式が存在し、さらにそれぞれ下記のような種類があります。
- エスプレッソ専用
- フィルターコーヒー専用
- エスプレッソ&フィルター兼用
(※フィルターコーヒーはドリップコーヒーなどを指します)
通常エスプレッソ専用のグラインダーは極細挽きに特化しています。そのためドリップコーヒーなどのフィルターコーヒーで使用する荒めのグラインドができません。
ほぼ全ての粒度レンジに対応したEK43のような例外的なグラインダーも存在していますが、一般的にエスプレッソ用のグラインダーはエスプレッソ専用の機種が多く使用されています。

グラインダーは単純に豆を粉砕しているわけではなく、下記に挙げる例のようにあらゆることを考えた上で設計・選定されています。
- グラインドサイズ(メッシュサイズ)
- グラインドの均一性
- 粒度分布とその範囲
- グラインド速度
- 粒度設定の範囲
- グラインダー内に滞留する豆の量
- メンテナンス性
初心者のうちはそこまで深く知る必要はありませんが、プロのバリスタがコーヒーを淹れるときの設定や調整は一般の方が想像する以上に重要視されていて、その作業はかなり細かく行われています。
最近のグラインダーはさらに進化しており、下記のような機能が追加されています。
- グラインドする前の豆の温度制御
- グラインド後の豆の重量測定と制御
- グラインド速度の変更
- クラウド上への接続(IoT機能)
- グラインダーの微調整は超シビア
- エスプレッソ専用とドリップ専用がある
- エスプレッソ専用グラインダーは荒挽不可
- EK43グラインダーは広い粒度に対応
エスプレッソ専用グラインダーとは?
エスプレッソ用グラインダーは200〜600μmほどの極細サイズにグラインドできる必要があります。
ハンドドリップの場合は700〜1200μm程なのでサイズに大きな差がある事がわかります。
もしもこの200〜600μmよりも荒くグラインドしてしまうとエスプレッソマシンの9気圧の圧力に耐える事ができず、適切な抽出を行うことが出来ません。
その場合、粒度が荒すぎて十分に圧力がかからず水っぽい未抽出のエスプレッソになってしまいます。
- エスプレッソ用は200〜600μm
- ハンドドリップ用は700〜1200μm
エスプレッソグラインダーの種類と特徴
エスプレッソ専用グラインダー
エスプレッソ専用グラインダーは通常本体上部にあるホッパーに豆を入れた状態で使用します。そのため基本的には投入している一種類の豆しか使用することが出来ません。
(※エスプレッソ専用グラインダーは他の豆を割り込んで使用する事が出来ません。)
また、その構造上挽いた豆がグラインダー内部に滞留してしまうことが多くなってしまいます。
グラインドサイズの変更を行う際にはその都度、数ショット分の豆(数十g程度)を押し出して入れ替える必要があります。
このグラインドサイズ変更後に豆を数回挽いて内部に滞留している豆と入れ替えることを「パージ」もしくは「リンス」と言ったりします。

グラインダー
Victoria Arduino社
Mythos one

グラインダー
Mahlkonig社
K30
営業終了時にはグラインダー内部に滞留している豆が多くあるためシングルドースグラインダーよりも豆のロスが多くなります。(旧式のMazzer Roberの場合少なくとも毎日100g以上はロスする)
- ホッパーには一定量の豆を入れた状態
- 内部に数十g程度の豆が滞留する
- シングルドースよりオペレーションは早い
- シングルドースより豆のロスが多い
- グラインドサイズ変更時にはパージが必要
シングルドースグラインダー
代表的な業務用のシングルドースグラインダーは
が挙げられます。この中でも世界で一番普及しているのがEK43グラインダーです。
シングルドースグラインダーは上部にあるホッパー内が基本的に空の状態でそのときに挽きたい量の豆だけを投入して使用します。
(EG-1のようにホッパーそのものがない機種もあります。)
そのため一台のシングルドースグラインダーで複数の豆をそれぞれに適したグラインドサイズで挽き分ける事ができます。
EK43を例に挙げると、
- ドリップコーヒーA 挽目9.0
- ドリップコーヒーB 挽目9.7
- エスプレッソA 挽目2.0
- エスプレッソB 挽目1.6
- ディカフ 挽目1.2
- エアロプレス 挽目5.0
といった形で複数の豆を一台のグラインダーで取り扱うことができます。
その分オペレーションの速さは通常のグラインダーよりも劣りますが、一台で複数台分の役割を果たすことが出来るので機器の導入費用をかなり抑えることができます。
また、シングルドースグラインダーは本体内部にほとんど挽き残りが滞留しません。あったとしても数g程度なのでコーヒー豆のロスを最小限に抑える事ができます。
- EK43が一番普及している
- ホッパー内は基本的に空の状態
- 一台で複数の豆を取り扱える
- 挽き残りが殆ど無い
シングルドースグラインダー用ツール
シングルドースグラインダーはもともとは豆の挽き売り用に作られたグラインダーで、エスプレッソ抽出時のバスケットへのダイレクトドーシングを想定して作られていません。
ドーシングには下記のツール等を使う必要があります。
ドーシングファネル
このファネルをポルターフィルタの上にセットすることでEK43グライダーからのダイレクトドーシングが可能になります。
(ポルターフィルタは挽いたコーヒー豆を詰めるバスケットが収納されている箇所を指します。)
ドーシングカップ
ドーシングカップはEK43グラインダーに固定できるのでよりスムーズなオペレーションが可能になります。ただし均一なドーシングが難しいとも言われています。
ボリュームメトリック ドーシングツール シングルホッパー
シングルドースグライダーの弱点として事前に豆のスケールを行う必要があることが挙げられますが、このツールを追加することで解消することが出来ます。
このツールを使えばホッパー内から一定の体積の豆を取り出してグラインドできます。
メインで使用する豆にこれを利用するとオペレーションの速さを改善する事ができ、事前に豆をスケールする必要もなくなります。
ボリュームメトリック ドーシングツール ツインホッパー
上記と同じツールですが、ホッパーを二つ取り付ける事が出来ます。そのため、メインとサブの豆を引き分ける事が出来ます。
- ホッパーは基本的に空の状態
- 一台で複数の種類の豆を挽き分ける
- 内部の挽き残りがほとんどない(1g以下)
- パージにほとんど豆を消費しない
- 通常のドーシングに適していない
- もともとは豆の挽き売りに適している
- 一杯のコーヒー用には設計されていない
- ファネルやドーシングカップなどが必要
ブレードの種類と特徴
コニカル
すり鉢状で異なる形の二つの立体ブレード
フラット(カット式)
ディスク状で同じ形の二枚の平面ブレード
関連用語集
過去に作成した関連用語集は下記のリンクから読む事ができます。
初心者のインプット効率を上げるためになるべく短文で厳選した用語を解説していますので5分ほどで流し読みすることが出来ます。
おすすめのグラインダーセットアップ例
筆者がお勧めするセットアップ例はオペレーションやメニュー構成にもよりますが筆者のお勧めセットアップの例を下記に二つ挙げます。
小規模の店舗であればEK43グラインダーにボリュームメトリックドーシングツールを取り付けるだけで十分対応できます。設備投資もグラインダーを一台にまとめる事で抑える事ができます。
ただしオペレーションはエスプレッソ専用グラインダーよりも遅くなります。開業後に想定よりも忙しくなった場合には追加でエスプレッソ専用グラインダーの追加を検討しても良いのかなと思います。
中規模店舗であればエスプレッソ専用のMazzerグラインダーをメイン機として使用し、Mythos oneをサブ機として使用することをお勧めします。
Mazzerはグラインド速度と安定性が高く、Mythos oneは温度制御による安定性に長けています。
しかし、Mythos oneはハイヴォリュームな環境ではその性能をうまく活かせないのでサブとして使用することをお勧めします。
グラインダー使用方法と動画まとめ
グラインダーの基本操作
グラインダーを使用する上で押さえておきたい操作が下記の
- 粒度調整
- パージ・リンス
- クリーニング
- メンテナンス
ような作業が挙げられます。
粒度調整
グラインダーは多くの場合数字が大きいほどそのグラインドサイズが大きくなります。
目盛りがMIN1〜MAX11のEK43グラインダーを例に挙げると、
- 1〜2 業務用エスプレッソマシン
- 2〜3 家庭用エスプレッソマシン
- 4〜5 マキネッタ(ストーブトップ)
- 7〜8 フィルターコーヒー
- 9+ フレンチプレス
のような抽出別に適している粒度の目安があります。
新しいモデルのEK43Sグラインダーや意図的に目盛をより細かくカスタムしたものも存在します。
その時には筆者が作成した下記の変換表を用いると使用環境の異なるEK43グラインダーでもある程度の粒度チェックができます。
グラインダーの目盛りを時計の時間位置に置き換えて記載しています。

パージ・リンス
以下の記す場合にはパージを行うことをお勧めします。(特にエスプレッソ専用グラインダー)
- 朝のダイヤルイン前
- グラインドサイズ変更直後
- 豆を変更した直後
一般的にエスプレッソ専用グラインダーはグラインドされてからすぐには排出されません。
数十gほど内部に滞留する空間が存在するため挽いた直後の豆は少し前に挽いた豆を押し出しているだけです。そのため、味を決めるダイヤルインの前や、グラインドサイズを変更した直後にはパージを行い豆を入れ替える必要があります。
また、朝一にホッパーが空の状態で挽いた豆は目盛のサイズよりも荒めに挽かれる傾向にあります。そのため、最初の1〜3回目にグラインドした豆はダイヤルイン(レシピ作り)に適していません。
もし1回目にグラインドした豆で美味しいコーヒーが抽出できても数ショット後にはレシピよりもタイムが長く過抽出なコーヒーになってしまいます。
そのため、しっかりとパージを行いグラインドされる豆が安定してからダイヤルイン(レシピ作り)を行うようにしましょう。
クリーニング
毎日行うべきクリーニングは以下の
- 豆の取り出し
- ホッパー清掃
- 内部の挽き残りを排出
まれにホッパー内に豆を残したままのカフェを見かける事がありますが、余計な湿気を吸い込んでしまうので必ず取り出して冷暗所に保管しましょう。
ホッパー自体はなるべく洗剤を使わずにエスプレッソマシンの蒸気を吹きかけた後に水分を拭き上げる程度で良いでしょう。
ただしダークローストの豆を使っているカフェではコーヒーのオイルが豆の表面にまで染み出ているのでペーパータオルなどで毎日噴き上げると良いでしょう。
あまりにも汚れがひどいようであれば中性洗剤で洗ったあとしっかりと水で洗い流しましょう。
内部の挽き残りはカメラ用のブロワや小型の掃除機で取り除きましょう。
メンテナンス(ディープクリーニング)
グラインダーの使用頻度にもよりますが週1〜月1回程度グラインダーを分解清掃することをお勧めします。コーヒー豆には多くの油分が含まれているためブレードや内部に固着してしまいます。
機種によってはそこまで難しい作業ではないので、代理店の方や経験者から習ってその技術を習得しましょう。筆者の暮らすメルボルンでもグラインダーを掃除できないバリスタは多数いるので、その技術は大きなアドバンテージになります。
動画まとめ
ここではよく使用されている業務用グラインダーの簡単な使用方法とそのクリーニング方法についての動画をまとめています。
Mazzer(マッツァー)
Mazzerは世界中でも多く使用されている王道の業務用グラインダーです。
Mazzerには大きく分けて
- アナログタイマー式
- エレクトロ式
のに種類が存在します。
エレクトロ式の方がグラインドの時間を細かく設定出来るので多く導入されています。
アナログタイマー式はドーサーという挽いた豆を一時的に貯めておくチャンバーが存在します。しかしこれは豆のフレッシュさを損なう原因にもなり、掃除面でもデメリットが多いので筆者はあまりお勧めしません。
Mazzer アナログタイマー式 使い方(英語)
Mazzer エレクトロ式 使い方(日本語)
Mazzer エレクトロ式 グラインド時間設定(日本語)
Mazzer ディープクリーニング(日本語)
Mythos one(ミトスワン)
ミトスワンも世界的にかなり浸透しているグラインダーの一つです。先に紹介したMazzerグラインダーと併用しているカフェもよく見かけます。
このグラインダーの大きな特徴はグラインドする前の豆をヒーターと冷却ファンの両方で温度制御している点です。そのため環境の変化に影響されずにコーヒーの抽出を行う事が出来ます。
Mythos one の使い方(英語)
Mythos one のディープクリーニング(英語)
EK43/EK43S
このEK43も世界的にかなり普及しているグラインダーの一つです。先にあげた二つのグラインダーとは少しタイプの異なるシングルドースグラインダーです。
EK43の使い方
EK43のディープクリーニング(英語)
EK43のクリーニング&カリブレーション(ゼロ調整)(日本語)
EK43グラインダーは使用していると目盛と実際のブレードのギャップ幅に差が発生しています。
例えば、目盛のグラインドサイズ2.0で挽いたとしてもブレードのギャップ幅が違っていると同じグラインドサイズにならないということです。
そのため時々ゼロ位置の確認をして2枚あるブレードの位置を調整する必要があります。
EK43のアライメント(英語)
アライメントは2枚あるブレードが不平行で偏ったままグラインドしている状況を調整する作業です。
特殊なツールと慣れが必要になる上級者向けの調整作業です。

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